責任ある AI の 6 つの原則
GitHub Copilot のような AI ツールは便利な一方で、使い方を誤ると、人や社会に害を与えることがあります。このページでは、Microsoft と GitHub が掲げる「責任ある AI」の 6 つの原則を整理します。
この記事で分かること
- 責任ある AI が、なぜ必要なのか
- 6 つの原則の名前と、それぞれの意味
- 原則ごとの、具体的な取り組み
- GitHub Copilot を使う開発者にとって、各原則がどう関係するか
試験範囲では、「GitHub Copilot を責任を持って使用する」(比重 15〜20%)の分野にあたります。
用語の整理
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 生成 AI | 文章やコードなどを、新しく作り出す AI |
| 責任ある AI(Responsible AI) | AI を、安全で、信頼できて、倫理的な形で開発・評価・展開するための取り組み方 |
| バイアス(偏り) | AI の判断が、特定の人やグループに対して、不当に有利または不利に偏ること |
| ガバナンス | 組織として、ルールを決めて守らせる仕組み |
| 仮名化(pseudonymization) | 個人を特定できる情報を、無関係な識別子に置き換えること |
| 集約(aggregation) | 一人ひとりのデータを、人数や平均のようなまとめた数字に置き換えて、個人ごとの詳細を取り除くこと。「集計」と訳されることもある |
なぜ責任ある AI が必要か
AI は、技術革新や効率化の機会をもたらす一方で、管理が必要なリスクも抱えています。公式の教材は、主なリスクとして次の 2 点を挙げています。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 判断の理由が分かりにくい | AI がなぜその判断をしたのかを、人が解釈しにくいことがある。その結果、透明性と、誰が責任を負うのかが曖昧になる |
| 意図しない害が生じる | 偏った判断や、プライバシーの侵害など、意図していない有害な結果につながることがある |
これらのリスクを抑える手段として、次の 3 つが挙げられています。
- ガバナンスの枠組みを整える
- AI の処理の透明性を確保する
- 人による監督を組み込む
こうすることで、AI の利点を活かしながら、悪い影響を小さくできます。
責任ある AI とは
責任ある AI とは、AI システムを安全で、信頼できて、倫理的な形で開発・評価・展開するための取り組み方です。
AI システムは、それを作って運用する人たちの、多くの判断の積み重ねでできています。システムの目的をどうするか、人が AI とどう関わるようにするか、といった判断です。責任ある AI は、こうした判断を、より有益で公平な結果に導くための指針になります。
中心にあるのは、人とその目的を、設計上の判断の中心に置くという考え方です。そのうえで、公平性・信頼性・透明性といった、変わらない価値を尊重します。
6 つの原則の一覧
Microsoft は、AI の開発と利用の指針として、6 つの原則を定めています。GitHub も、同じ原則に沿っています。
| # | 原則 | 英語 | 一言でいうと |
|---|---|---|---|
| 1 | 公平性 | Fairness | AI は、すべての人を公平に扱う |
| 2 | 信頼性と安全性 | Reliability and safety | AI は、確実かつ安全に動作する |
| 3 | プライバシーとセキュリティ | Privacy and security | AI は、安全で、プライバシーを尊重する |
| 4 | 包括性 | Inclusiveness | AI は、すべての人の力になり、人々を巻き込む |
| 5 | 透明性 | Transparency | AI は、理解できるものである |
| 6 | アカウンタビリティ(説明責任) | Accountability | AI については、人が責任を負う |
以下で、1 つずつ見ていきます。
1. 公平性(Fairness)
AI は、すべての人を公平に扱い、似た状況にある人たちに、異なる影響を与えないようにする必要があります。
たとえば、医療、ローンの審査、採用といった場面では、同じような症状・財務状況・資格を持つ人に対して、AI は一貫した提案をするべきです。
バイアス(偏り)を見つけて、不公平な影響を減らすための手法として、次の 5 つが挙げられています。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 学習データの見直し | AI の学習に使ったデータに、偏りがないかを確認する |
| バランスの取れたサンプルでのテスト | 年齢や性別などの属性に偏りのないデータを使って、モデル(学習済みの AI)をテストする |
| 敵対的デバイアス | 偏りを取り除くための学習手法を使う |
| 利用者の層ごとの性能の監視 | 利用者のグループごとに、モデルの性能に差が出ていないかを監視する |
| 不公平な結果を上書きする仕組み | モデルが不公平な判定を出したときに、人が上書きできる仕組みを用意する |
多様で、バランスの取れたデータで AI を学習させることが、バイアスを減らし、公平性を高めることにつながります。
2. 信頼性と安全性(Reliability and safety)
信頼を得るには、AI が確実に、安全に、一貫して動作する必要があります。具体的には、次の 3 点が求められます。
- 設計したとおりに機能する
- 想定外の状況にも、安全に対応する
- 有害な操作(AI をだまして不正な動作をさせようとする行為)に耐える
「安全性」と「信頼性」は、次のように区別されています。
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 安全性 | 意図しない害を最小限に抑えること。害には、身体的な害、精神的な害、経済的な害が含まれる |
| 信頼性 | 望ましくないばらつきや誤りを出さず、意図したとおりに一貫して動作すること |
AI がどのような状況に対応できるかは、設計とテストの段階で、開発者がどこまで先を見通していたかを反映します。
3. プライバシーとセキュリティ(Privacy and security)
AI が広く使われるようになるほど、利用者のプライバシーと、データの安全を守ることが重要になります。
データの扱い方
| 取り組み | 内容 |
|---|---|
| 収集する前に、利用者の許可を得る | AI がデータをどう使うのかを明確に説明し、同意を得る。ひそかに収集しない。個人データを共有するかどうかを、利用者が選べるようにする |
| 必要なデータだけを収集する | AI が動作するのに必要なデータだけを集める。余分な情報は集めず、機密性の高いデータは、不要になったら削除する。入力されるデータを定期的に確認する |
| 個人データを匿名化する | 仮名化や集約を使って、個人を特定できないようにする |
仮名化(pseudonymization)は、個人の情報を無関係な識別子に置き換える方法です。集約(aggregation)は、一人ひとりのデータを、「20 代は何人」「平均はいくら」のような、まとめた数字に置き換える方法です。まとめてしまえば、個々の人が誰なのかは分からなくなります。
暗号化と鍵の管理
機密性の高いデータは、送信するときも、保存するときも暗号化します。暗号化に使う鍵を守る方法として、次の 3 つが挙げられています。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ハードウェア セキュリティ モジュール(HSM) | 改ざんを防ぐ仕組みを備えた専用の機器の中に、鍵を保管する |
| 安全な保管庫 | アクセスを制御できる保管用のサービス(Microsoft Azure のものなど)に、鍵を保管する |
| エンベロープ暗号化 | 2 つの鍵を使って、安全性を高める暗号化の方法 |
組織としては、次のことも求められます。
- 鍵やモデルにアクセスできる人を制限する
- 鍵を定期的に交換し、安全にバックアップする
- 機密性の高いモデルやデータへの、従業員のアクセスを制限する
- モデルやデータを、機密性の高さに応じて分類する
- 不正なアクセスを防ぐために、定期的にセキュリティの監査を行う
4. 包括性(Inclusiveness)
包括性とは、AI が公平で、誰でも利用でき、すべての人の力になることを意味します。AI を作る側は、あらゆる人・コミュニティ・地域を含めるように、積極的に設計する必要があります。特に、これまで十分に考慮されてこなかった人たちを含めることが重視されています。
包括性の基準として、次の点が挙げられています。
- 多様な利用者やグループに対して、適切に機能する。一部の人に不利益を与えない
- 身体的・精神的な能力にかかわらず、誰でも簡単に使える
- 発展途上の国や地域を含めて、世界中で利用できる
- さまざまな背景やコミュニティの人たちが、開発に意見を出す
- すべての利用者が、機能から平等に恩恵を受けられる
包括的な AI の例は、次のとおりです。
| 例 | 内容 |
|---|---|
| 顔認識 | 肌の色、年齢、性別にかかわらず機能する |
| 画面の操作 | 視覚に障害のある人のための、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)に対応している |
| 翻訳 | 話す人の少ない地域の言葉にも対応している |
| 開発チーム | 設計のときに、多様な視点を取り入れる |
誰もが利用できるようにするための手段として、次の 3 つが挙げられています。
- 音声での操作、字幕、スクリーンリーダーなど、別の操作方法を用意する
- さまざまな言語や、地域の文化に合わせられるようにする
- オフラインや、通信環境・計算資源が限られた状況でも動作するようにする
5. 透明性(Transparency)
透明性とは、AI が理解でき、解釈できるものであることを意味します。AI を作る側には、次のことが求められます。
- システムがどう動作するのかを、明確に説明する
- 設計上の選択について、その理由を示す
- AI にできることと、限界について、正直に伝える
- 記録(ログ)、報告、監査の機能を用意して、あとから検証できるようにする
透明性は、ほかの原則を支える土台でもあります。信頼を築くこと、責任の所在を明確にすること、公平性を高めること、安全性を強めること、包括性を支えること、のすべてに関わります。
透明性を実現するための具体的な方法としては、データとモデルについて文書を残すこと、説明のための画面を用意すること、AI の不具合を調べるツールを使うこと、テストの状況を見られる画面を作ること、記録と監査を有効にすること、が挙げられています。
6. アカウンタビリティ(Accountability)
アカウンタビリティとは、AI について、人が責任を負うという原則です。AI を作る側は、システムの動作に責任を持ち、性能を継続的に監視して、リスクを抑える必要があります。
AI が害や偏り、悪用を引き起こした事例が知られるようになり、責任の所在は差し迫った課題になっています。責任を問う仕組みがなければ、中身の見えないシステムを通じて、AI を作る側が人々の生活に大きすぎる影響力を持つことになる、という指摘があります。
Microsoft は、アカウンタビリティを基礎となる原則と位置づけています。AI システムは人に対して説明できるものでなければならず、AI を展開する企業は、その運用に責任を負わなければならない、としています。
GitHub Copilot を使う開発者にとっての意味
この節について
ここまでの内容は、公式の教材をもとに整理したものです。この節は、公式の教材には書かれていない、このサイト独自の補足です。6 つの原則を、Copilot を使う場面に当てはめて考えています。
6 つの原則は、主に AI を「作る側」の指針として説明されています。しかし、Copilot を使う開発者も、Copilot の提案を採用してソフトウェアを作る立場にあります。使う側として意識できることを、原則ごとに整理します。
| 原則 | Copilot を使う場面で意識すること |
|---|---|
| 公平性 | 提案されたコードやサンプルのデータに、特定の人やグループを不当に扱う内容が含まれていないかを確認する |
| 信頼性と安全性 | 提案をそのまま採用せず、テストとレビューで、意図したとおりに動くかを確かめる |
| プライバシーとセキュリティ | 秘密の情報や個人の情報を、不用意に入力しない。提案されたコードに、情報が漏れる原因になる書き方がないかを確認する |
| 包括性 | 画面を作るコードでは、さまざまな利用者が使えるようになっているか(読み上げへの対応など)を確認する |
| 透明性 | Copilot にできることと限界を理解しておく。チームの中で、AI をどう使ったかを共有できるようにする |
| アカウンタビリティ | 採用したコードの責任は、Copilot ではなく、採用した開発者とチームにある |
Copilot の出力を具体的にどう検証するかは、「04. AI 生成コードのリスクと検証」で扱う予定です。
訳語の違いに注意
Microsoft Learn の日本語版の教材は機械翻訳で、同じ言葉に複数の訳語が使われています。どちらで出てきても分かるようにしておくと安心です。
| 英語 | 日本語版の教材での表記 |
|---|---|
| Accountability | 「アカウンタビリティ」と「説明責任」の両方が使われている |
| bias | 「偏り」。一般には「バイアス」とも呼ばれる |
| aggregation | 「集約」。一般には「集計」と訳されることもある |
| pseudonymization | 「仮名化」 |
まとめ
- 責任ある AI とは、AI を安全で、信頼できて、倫理的な形で開発・評価・展開するための取り組み方である。人とその目的を中心に置く。
- AI のリスクは、ガバナンスの枠組み、透明性の確保、人による監督によって抑える。
- 6 つの原則は、公平性、信頼性と安全性、プライバシーとセキュリティ、包括性、透明性、アカウンタビリティである。
- 公平性では、似た状況の人に異なる影響を与えないことが求められる。バイアスを減らす手法が 5 つ挙げられている。
- アカウンタビリティは、AI について人が責任を負うという原則である。Copilot の提案を採用した責任は、開発者とチームにある。
確認問題
このページの内容から作った、自作の問題です。実際の試験問題ではありません。選択肢を選んで「答えを確認する」を押すと、正解と解説が表示されます。
参考資料と確認の記録
- Responsible AI with GitHub Copilot(Microsoft Learn)
- GitHub Copilot を使用した責任ある AI(Microsoft Learn・日本語版)
- Study guide for Exam GH-300: GitHub Copilot(Microsoft Learn)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 最終確認日 | 2026 年 10 月 10 日 |
| 検証の状況 | 公式の教材(英語版と日本語版)の内容と照合した。「GitHub Copilot を使う開発者にとっての意味」の節と確認問題は、このサイト独自の内容 |
| 教材の版 | 英語版の教材の日付は 2024 年 9 月 13 日 |